ウェルカム・パーティ 4 東堂の言葉を聞いても、智幸は振り返らなかった。 「おい、トモ。聞いてんのか」 「…聞いてる」 智幸はゆっくりと振り返って東堂を見た。大輝には智幸が怯えているように見えた。 東堂は智幸の目を真っ直ぐに見ながら言った。 「お前、村田と寝たな」 その一言で、智幸が固まったのが判った。 返事は無かったが、東堂はその反応を肯定と受け取ったようだ。 「…お前、前からスポンサーに困ってるって言ってたよな」 智幸は視線を床に落としている。 「どうしてもって時は俺に言えって言ったろ」 フロアに沈黙が落ちた。 東堂は智幸の言葉を待っているようだった。 大輝も酒井も、二人をただ見守るしかなかった。 「…あんたには…」 沈黙を破ったのは智幸だった。 「あんたには頼りたくなかったんだ!どうしても自分の力でやっていきたかったんだよ!」 叫ぶように言う。一方、それに応えた東堂は冷静なものだった。 「で、何人もの男に自分の身体売ってたってわけか」 東堂は大きく溜め息をついて苦い顔をした。 「お前な、派手に動きすぎだ。”舘智幸は誰とでも寝る”って噂が広がってるのを知ってるか?」 智幸は何も言わない。たが、東堂から目を逸らさないように必死に耐えているようだった。 「まぁ”噂”じゃねぇもんなぁ。本当の事だよな」 東堂は一人で嘲笑して続ける。 「先週組合の集まりがあった。あのバカでかい看板出してる整備会社の社長だからな。当然村田もそこに来た。そしたらあのブタ野郎俺になんて言ってきたと思う。『舘は東堂さんが仕込んだんですか。さぞかし仕込み甲斐があったでしょうね。咥えさせたらうまそうにしゃぶってましたよ』だとさ!」 智幸の顔が蒼ざめていくのがわかった。反対に東堂は興奮して顔が赤くなっている。 「バカのひとつ覚えみてぇに男の咥えて悦んでたんだろ!?」 東堂が大きな声で言い放った余韻が、部屋中に反芻しているように感じた。 「お前のせいでこっちまで変な噂立ってんだ。”東堂塾はドラテク以外にも仕込んでることがある”ってな」 「…それ、俺も聞いたことあるな」 酒井は静かな声で独り言のように呟いた。 智幸は震えて、立っていることですらつらそうにしている。全てを曝け出されて、智幸は何を思うのだろう。 「本当は抱かれたかっただけなんじゃねぇのか?トモ」 「違う!」 頭を抱えながら、智幸はうずくまった。 東堂は近づいていき、後ろから抱きすくめるようにした。 そして、耳元でこう囁いた。 「気持ちよかったか?」 「!?」 東堂は一瞬で智幸を組み敷いた。智幸には抵抗する隙も気力も無いようで。 驚いたのは大輝と酒井で、これから何が始まるのかわからなかった。 「酒井、さっきこいつイったか?」 東堂は智幸の上に乗ったまま、智幸を見つめたまま、酒井に訊いた。 「…いえ」 「おまえ、突っ込んだんだろ?」 「…一応」 「へぇ…」 東堂はニヤリ、と笑って智幸に言った。 「おまえ、イかせてもらえなかったのか。あいつらが下手くそで残念だったな、トモ」 「…ッ」 智幸は東堂から顔を背けたが、すぐに顎を掴まれて戻された。 「久しぶりに悦くしてやろうか?」 東堂の手は既に智幸のジーパンの中に潜り込んでいた。一番初めからココに触れたがるのはこの男のクセといってもよかった。 「やめろよ…」 それを煩わしそうに払おうとした智幸の手は、東堂に押さえつけられた。東堂は楽しそうに笑っている。 「酒井、こっち来い」 酒井はしぶしぶといった感じで二人に近づいていった。すると、智幸の腕を押さえつけているように東堂に申し付けられた。はいはい、と適当に返事をしながら、酒井は智幸の両腕を押さえつけた。 その様子を見て、大輝が動いた。酒井を押しのけ、智幸を自由にしようとした。ところが酒井はすぐに体勢を立て直して、反対に大輝をうつ伏せにして押さえつけた。両手を背面で拘束された大輝は、必死にもがいて酒井を睨み付ける。 「なんだ、今日は賑やかだな」 東堂は苦笑しながら大輝の様子を見た。 「大輝、そんなにトモが好きなら、お前がイかせてやったらどうだ?」 東堂は智幸のジーパンを剥いで、智幸の秘部を弄り始めた。まだ精液が残っているそこは、湿っていて簡単に東堂の人差し指と中指を受け入れた。クチュクチュと音が漏れ始める。 「ッ…」 「大輝、お前ココに挿れてやれよ」 「だっ、誰が!」 「智幸もお前のこと気に入ってるみたいだぜ。なぁ、トモ?」 「黙れ!」 「お前、大輝のでイってみろよ」 「やめ…ッ」 東堂は智幸の内で指を動かしていた。彼は智幸の悦い部分を知り尽くしている。智幸の身体を開発したのは東堂に他ならないのだから。その東堂は、智幸の喜ぶ部分を徹底的に弄っていた。暫く身体を繋いでいなかったが、忘れてはいなかった。その証拠に、智幸の性器が次第に硬さを増していく。 「ん…っ、あ」 先程、佐伯たちに無理やり捻じ込まれた感覚とは反対に優しく扱われて、しかも的確にスポットを狙われて。智幸は大きな快感の波を感じていた。 「ホラ、大輝。早くしないとトモがイっちまうぞ」 「や、やめろ!」 「やめる?トモは気持ち良さそうにしてるだろ」 「ぁ、や」 智幸は無意識に腰を動かし、大きくなる欲望を解放してくれるものを探していた。 「我慢出来ないか?トモ。…仕方ねぇな」 東堂は智幸の身体を横向きにして、片足を上げさせる姿勢を取った。智幸の性器の先端からは透明な液体が流れ出している。 「大輝、見えるか?ちゃんと見といてやれよ」 大輝が顔を上げると、智幸の性器と秘部が目に入った。東堂は大輝にわざと見せ付けるような恰好を取ったのだ。 大輝は目を逸らそうとしたが、甘い息を吐き出している智幸の顔目にした途端、目が離せなくなった。 東堂は智幸の性器に触れ、緩く扱き出した。ゴツゴツと骨ばった指が刺激を与えながら動くと、智幸は益々声を漏らした。 「ぅ、ッ、ん」 やわやわと動く指に、智幸は焦れたように腰をくねらせた。 「トモ、どうして欲しいんだよ?」 東堂は秘部に挿入する指を増やして、智幸のイイ所を攻め続けた。 「も…っ、やめろ…」 「止めねぇよ」 「なら…なら早く終わらせ…ッ」 その光景を、大輝も酒井も見ていた。 喘ぐ智幸の顔と、湿った音を立てながら東堂の指を咥えては吐き出す秘部。 「こんなの見せられちゃ堪らないな」 酒井が興奮気味に呟いた。 大輝は同意こそ示さなかったものの、ゴクリ、と喉を鳴らした。智幸の感じている顔から目が逸らせないのは事実なのだから。 そして、大輝の下半身に熱が集中し始めていることも事実だった。ジーパンの中で大きく膨らみ始めたものを、誰にも気付かれないように努めていた。けれどそれは、酒井によって容易く見破られてしまうのだった。 「大輝、お前感じてるんだろ?」 酒井は大輝の股間をまさぐると、硬くなりつつあるそれに刺激を加えた。 「触るな!」 「いいだろ、別に。見せてみろって」 身体を起こされて、酒井は覆いかぶさるようにして大輝のジーパンを脱がせる。 酒井の手が性器に直に触れると、大輝は身体を大きく振るわせた。大輝は恥ずかしさで顔を紅潮させていた。 酒井と大輝の様子を見ていた東堂は、智幸にも同じものを見せた。 「なぁ、トモ。折角だからお前がしてやれよ。お前のこと見てて大きくさせちまったんだからさ…」 智幸は達する寸前で東堂に弄ばれていた。もう誰でもいい、解放して欲しい。そう感じ始めていた。 「何するんですか、酒井さん…!」 酒井は大輝を後ろから抱えるように智幸の側まで連れて行った。 「ほら、トモ。大輝を気持ちよくしてやれよ」 東堂は智幸の内から指を抜き、大輝に奉仕するように命じると、智幸は大輝の性器に手を伸ばした。 大輝の性器は智幸の吐息が掛かるだけでも反応した。 大輝は、柔らかくて湿った智幸の舌が纏わりつき始めたのを感じた。 舌が大輝の性器に唾液を絡めていく。次第に深く咥え込まれて、智幸の口内の熱さが大輝を硬く、大きくした。 「っ、トモさん…やめ…」 「トモはしゃぶるのが好きなんだよ。遠慮すんなよ、大輝」 東堂は面白そうに笑う。智幸の舌が動く度に、大輝は身体を振るわせた。 「大輝、気持ちいい?」 耳元で囁いてくるのは酒井だった。 「目ェ開けろよ。トモさんが大輝のしゃぶってるとこ、ちゃんと見ろよ」 大輝が目を開くと、自分の性器を愛撫している智幸の様子が映った。一瞬、視線を向けた智幸と目が合う。潤んだ熱っぽい瞳で見上げてくる彼は、大輝の知っている智幸ではなかった。淫乱で、欲望に忠実な娼婦のような瞳をしていた。 更に、後ろから酒井が腿から尻にかけて手を這わせていた。酒井の指が、割れ目に沿って動き、大輝の秘部の入り口を愛撫し始めた。他人に触れられることのなかった部分を弄られて、大輝はくすぐったいような感覚を感じていた。 酒井にスエットを捲り上げられて、大輝が次に感じたのは、首筋に落ちる軽いキスだった。首筋、肩、肩甲骨、背骨…。酒井は道を作るようにキスをした。キスと同時に胸の突起にも触れられて、大輝はいろんなところから攻められていた。 「トモも楽しませてやるよ」 東堂は言って、智幸の秘部に自らの性器を押し当てた。散々指で準備されたそこに、ゆっくりと挿入していく。 「ん!…ッ」 「トモさん、大輝のちゃんと舐めてあげてくださいよ」 愛撫を止める智幸に、酒井が言う。舌の動きはたどたどしくなったが、間もなく再開された。と同時に、東堂も腰を動かし始める。 「ぁ、む、」 喘ぎながら奉仕する智幸の姿を、3人の男達は見ていた。それぞれが、自らの快感を求めながら。 「あ…ッ」 「んぅ!」 智幸が強く吸い上げると、大輝は簡単に智幸の口の中に精液を吐き出した。智幸はそれを躊躇いなく飲み込んだ。 どうしようもない、征服欲。この智幸を、自分のものに出来たら―――。 大輝はふとそんな考えがよぎり、頭を振って打ち消した。 「トモ、大輝をイかせて終わりじゃねぇぞ」 東堂は、智幸の中を激しくかき回していた。 「お前の大好きな大輝も見てるぞ。お前のイくとこ、見せてやれよ、ほら、」 「や、あ、大…大輝…、見る…な…ッ、ぁ!あ!あ…ッ」 小刻みに速く動き始めた東堂に追い立てられるようにして、智幸は絶頂を迎えた。 ビクビクと、白濁した液体を吐き出しながら、智幸は崩れ落ちた。 東堂は智幸から性器を抜き出すと、酒井を呼んで、酒井に奉仕をさせた。 大輝は混乱しながらも、慣れた様子で東堂のモノを愛撫する酒井をただぼんやりと見ていた。 「大輝、起きろ」 声が聞こえて瞼を開けると、そこには酒井の顔があった。 身体を起こすと、自分はいつの間にかソファで寝ていたようだった。毛布が掛けられていることにも気付かなかった。 「酒井さん…」 あれは―――夢だったんだろうか。 それを確かめようとしたが、大輝は言葉が出なかった。 「どうした?」 「…何でも、ないです」 身体に残る、気だるさは確かにある。 けれど――――。 「大輝、そろそろ帰ろう」 酒井はそう言って背中を向けた。 大輝は黙ってそれに続いた。 目を覚ましたとき、そこにあったのは日常の光景だった。 例えば起こしにくる酒井の顔だとか、 隣のソファで眠っている智幸だとか、 椅子に座って新聞読みながらコーヒーを飲んでいる社長の姿だとか、 今までと何も変わらなくて、それならそれでいいんじゃないかと思った。 「社長、俺ら帰りますね」 酒井の声に軽く手を挙げた東堂を見て、大輝は階段を降りていった。 「…社長」 「なんだ、起きてたのか」 「あいつら、大丈夫ですかね」 「何が」 「いや…」 「お前が心配してるのは大輝だろ」 「そんなこと…無いですけど」 「どっちかと言えば酒井の方がヤバいな」 「え?」 「今まで保ってたものが壊れそうになってるからな」 「…そうですか」 「それより、お前だ」 「え?」 「今度、困ったことがあったら一番最初に俺に連絡して来い」 「……」 「分かってんのか」 「…だって、」 「あ?」 「あんたのとこに来ると、甘えそうだったから」 「……」 「……何か言ってくださいよ」 「あのな、」 智幸は起き上がって、椅子に座る東堂の上に腰掛けた。 「甘やかすのは俺の趣味なんだぜ」 「…知ってる」 「思いっきり甘やかして、優しくして、抱きしめてやるのが好きなんだよ」 今、こうして東堂に抱き寄せられて甘やかされている自分に、智幸もまた、酔っていた。 それでも、どんなに甘く、どんなに優しく抱きしめられても、 ブラックコーヒーが好きな男のするキスは苦かった。 ←back |