みんなが嘘をつく日。
今日だけは、いろんな場所でかわいい嘘が囁かれる。
俺もその風習に倣っただけ。
その筈だったのに。


アニキに言ってから、自分の言葉で幻滅している自分に気がついた。
これは”ホント”。
我ながら馬鹿げていると思う。
今までずっともやもやしていて形に出来なかった言葉を、
この”嘘をつく日”にならば、こんなにも簡単に言えてしまうなんて。


アニキはといえばニヤっと笑って

『そうか』

なんて言っただけで、騙せていないことは明白だった。

少しは、騙されたフリくらいしてくれてもいいのにな。

俺は口を尖らせて、そのままアニキの部屋を出た。

やっぱり俺には嘘つくのは向いてない。慣れない事はするもんじゃねぇな。

ここ数年俺の中にあった、急に現れたり消えたりするあやふやな感情。
『好きなんだ。兄弟としてじゃなく、恋愛対象として』
言葉に出して言ってみたら、妙に納得してしまった。

そうだったんだ、俺はアニキが好きだったんだ。
大事であろう言葉をこんなときに軽く使ってしまった後悔。
兄を騙そうとして失敗した後悔。
逃げていた自分の気持ちに気付いてしまった、後悔。


―――気付かない方が良かったのか?

俺は後悔してる?本当に?

自分に問いかけながら、タバコを買いに家を出た。

毎日通る、幼稚園の角を曲がった道がいつもと違ってた。
通り過ぎる人たちが歩調を緩めて、中には立ち止まる人も居たりして。

みんなが上を見てた。
俺もその路地に入った瞬間、驚いた。

桜が咲いていた。

昨日もここを通ったのに、気付かなかった。
きっと殆どの人が、冬の灰色の景色の中で枯れ木を装っていたらしい桜の思惑に気付いていなかった。
この桜が、いつ咲いてやろうか、いつ驚かせてやろうかと
ゆっくりと、確実に蕾を膨らませていたことを。
一度咲けば、なんという圧倒的な存在感。

―――似てる。
気付いてしまった自分の感情に。


なんだか俺は嬉しくなって、にやけながら今来た道を引き返した。

アニキを呼んで来よう。
それでこの桜を見せてやろう。

咲き始めだって、こんなに存在感を持っている。
これから、もっともっと綺麗になって自信をもって咲き誇る。
そうなれば誰もが足を止めて見上げることになるだろう。

俺自身も、アニキだって、目に留めずには居られなくなる、きっと。

「覚悟しとけよ」

桜の季節は今始まったばかりなのだから。





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