メカニック

2

「松本さん?何ふざけて・・・」
拓海の返事を待たず、松本は拓海の身体を強くをハチロクのボンネットにうつ伏せに押し付けた。
最初から返事など聞く気は無かったのかもしれない。
手を後ろで捕らわれてしまい抵抗しようにも出来なくなる。 松本の脚が拓海の脚を割って入ってきて、開かせようと動いた。
「…っ!」
股間にある触れられたくない部分を、松本は太腿でわざと刺激してくる。
「ねぇ、気付いてる?自分がどれだけ相手を挑発してるか」
「何言って…」
「無いって?自覚が無い方がよっぽどたちが悪いよ」
松本は掴んでいた拓海の両手を近くにあったロープで器用に縛った。
「やめてください!外せよ!」

拓海が必死に手を動かすたび、紐が手首に食い込んだ。
松本は拓海に覆いかぶさるようにして手を前に持っていくと、拓海のジーンズのボタンを外しジッパーをゆっくりと降ろした。まるで、脅えた拓海の様子を楽しんでいるかのように時間をかけた。
「嫌だって…やめろよ」
ブリーフの中に松本の冷たい指が侵入してくる。その冷たさのせいか、侵入者の動きのせいか、拓海は下半身から湧き上がってくる異様な感覚を覚えた。
松本は拓海を探し当て、それを弄び始めた。指先の冷たさが松本の指が何処に触れているかを否応無しに認識させることになり、余計に感覚を刺激した。
「やだって!松本さん!」
拓海が抵抗すると、松本は言った。
「大きな声出すと、涼介さんたちが来るよ?」
「!!」

拓海は身体を硬直させた。
拓海は松本にされている行為にも酷い嫌悪を感じているが、こんな風にされた姿を誰かに見られることもそれ以上に嫌だった。
特に、涼介にだけは。

「藤原くん、涼介さんのこと好きだよね」

拓海は耳まで真っ赤に赤面させた。 その様子は松本の指摘が間違って居ないことを示していた。
「いつも涼介さんのこと見てるもの。分かるよ」
拓海の様子をまるで気にかけないように振舞いながら、松本の指は巧妙に動き拓海を大きくしていく。寒さで縮んでいたソレはあっという間に硬くなり、熱を帯び始めた。

「…ぁ」
「感度いいね、藤原くん」
「俺のこと、涼介さんだと思って良いよ。目を瞑ってるといい」
「やめ…」
「ねぇ、知ってる?」
「涼介さんもね、すごく感じやすいんだよ」

拓海はその言葉に心臓が止まったかと思うくらい息が詰まった。振り返って松本を見ると、そこにはただただ、微笑んだ松本の顔があった。
「ふふ、気になるかい?」
「ま、さか、涼介さんにも同じこと・・・」

声が震える。

「したよ」

松本は飄々と言った。
「涼介さんのときはちゃんとベッドの上だったけどね」
「嘘だ…」
「あのキレイな身体を縛らせてもらったよ」
「ねぇ、涼介さんがどんな風に感じてたか知りたくない?」
「やめろ!聞きたくない!」
拓海の言葉を無視して、松本は口を止めようとはしなかった。
「このチームに誘われたときにね。今と同じようにやったら『わかった』って。別にダメでもプロジェクトには参加するつもりだったんだけどね」
(わかったって…。それって…)
つまり、涼介は松本と身体で取引をした、ということだ。
「涼介さん、結構感度良かったなぁ。声は出さないようにしてたみたいだけど」
拓海は頭がまだ追いついていなかった。
(涼介さんが…松本さんと…?このプロジェクトの為に?)

「でも、”男慣れ”してたよ」

拓海は目を見開いた。
「オレが初めてじゃないっていうより、むしろ慣れてる感じだったな」
松本は拓海の反応を見ながら楽しそうに言葉を発した。
(涼介さんが”男慣れしてる”?男慣れって何だよ…男と…寝てるって事か?) 拓海の頭の中に単語がバラバラと落ちてくる。
けれど、拓海の中にはっきり浮かんだものは、
      ”男に抱かれている、涼介”
いつもは冷静で決して取り乱すことのない、全て計算して日常を回転させているかのような涼介。
その涼介が、縛られて男の腕の中で声を堪え、歯を食いしばりながら、啼く。
拓海は、頭の中がぐるぐると回っている感覚に陥った。
(なんだよ…いまごろ酔いがまわってきたのか…?)
拓海は涼介を信頼していて、尊敬していた。彼のようになりたいと、近づきたいと思っていた。彼は拓海の憧れだった。
Dに参加して初めて涼介が自分の功績を褒めて、それを喜んでくれた笑顔。嬉しかった。また笑って欲しい。出来ることなら、自分だけに。そう思った。だからこそ啓介には負けたくないと駆り立てられてきたのだ。

その涼介が、拓海の持つ涼介のイメージが乱れていく。
ぼーっとする頭で必死に整理しようとしているとき、松本が手を再び動かし始め、拓海に刺激を与え始めた。
「あ…」
拓海の頭は涼介のことでいっぱいで、自分の身体を制御する容量がなくなっていた。
(涼介さん…)
「ん…っ」
脳から拒否信号の出ない身体は、素直に松本の言うことを聞いて先端を濡らし始める。
(涼介さんも、こんな事されたのかな…)
うつろな瞳の奥に涼介が愛撫されている姿が浮かんだ。
キレイな肌に食い込む縄。紅潮した頬。そして、長い脚の間の性器を嬲られている姿。
拓海自身は勃ち上がり、松本はその熱を弄んだ。

松本は知っていた。
拓海の涼介に対する感情は、憧れなどではなく、欲情だということを。
それさえわかれば、拓海をモノにするのは簡単だろうと考えていた。
松本は拓海を愛しているという訳ではない。ただ、手に入れたかった。
自分が惹きつけられる身体を自由にしてみたかったのだ。

「…んっ」
拓海は急速に膨張し、そのままの勢いで果ててしまった。
射精する瞬間に考えてしまったのは涼介の姿だった。脱力感と、罪悪感。
拓海はまだその感覚から立ち直れないようだった。

「さて、」
松本は自分の施した”メンテナンス、、、、、、”が巧く生きるのが嬉しい。まして、自分の思い描いた通りにその効果が現れれば尚更だ。
拓海が抵抗しなくなったのを確認すると、縛っていたロープを解き自分のつなぎのジッパーを下まで降ろして、自分の性器を露出した。
拓海の果てた様子を見て硬くなり始めた松本のそれを拓海の口元へと持っていった。
「しゃぶってよ、藤原くん」 拓海はアルコールでぼんやりし始める頭を振り、なんとか覚醒させようとしたが無駄だった。 (涼介さん…) 頭の中には涼介の事ばかりが浮かんでくる。 拓海は目の前のモノを口に持っていって咥えた。そして自然に愛撫を開始した。
涼介に奉仕している気分になっていた。乱れる涼介を見たいから。自分の行為によって冷静さを失い悶える涼介を見たいから。
しかし、男性器への愛撫の仕方を拓海が知っている筈は無く、ただひたすら舌を動かしてからませるだけだった。けれど、不規則でたどたどしい動きと、必死の奉仕をする拓海の淫らな顔が松本に与える快感は大きかった。
「…は」
溢れ出す唾液が拓海の口の端から筋になって落ちていく。ピチャピチャと、わざと音を立てて奉仕を続ける。
拓海が視ている涼介は、声を必死にガマンして、眉を寄せて熱い息を吐き出していた。
(涼介さん、気持ちイイですか…?男と、こんなことしても…?)
涼介の額に汗で黒髪が張り付いている。拓海の頭を掴んでぐっと身体に引き寄せ、もっと激しい奉仕を促す。
『もっと…藤原、もっとだ…。…ン、あっ…まだ…っ』
拓海の舌の動きは速くなっていった。確実にさっきよりも巧くなっている。環境に順応する力、というものはこんなものにまで及ぶのだろうかと、松本は可笑しくなってひとりで笑ってしまった。

(涼介さん…そんな顔するんですか…?肩で息して、ココ、そんなに舐めて欲しいんですか…?)

拓海は、涼介に奉仕している間に自分の先端が濡れてきていることに気づいていなかった。さっき果てたモノはきちんと起立し、下腹部に痛みを感じる程になっていた。しかし、それにも気づかずに 涼介、、のモノをしゃぶっていた。

(オレ、涼介さんのを舐めてるんだ…。あの、涼介さんの…)

そう思った瞬間、拓海は誰の刺激も受けないのに射精してしまった。涼介の幻想だけで。松本のものをしゃぶりながら。
松本はその拓海の反応が面白かった。何も手を加えていないのに、男の性器をしゃぶりながら興奮してひとりでイってしまう童顔の青年。
「淫乱…か、ぴったりだな。」
口の端に笑いを浮かべながら拓海を見下ろす。
拓海は果ててもなお、たどたどしく舌を動かした。口が疲れていることも麻痺して感じなかった。
拓海のイった顔を見た松本も、限界を登りつめていた。
「…!出る!」
その瞬間、無理やり拓海の口から引き出し、拓海の顔面に射精した。
「!」

拓海はなす術も無く、ただ呆然とうつろな瞳で松本を見つめた。半開きの口から唾液と精液が垂れ流されていた。
ゾクリ。と松本は震えた。たまらない。この感覚。支配欲なのか達成感なのかよくわからないが、その拓海の顔は娼婦のようだと思った。
拓海は完全に酔っていた。酒と、自分の作り上げた涼介に。
意識が遠ざかる。
けれど、松本がそれを許さなかった。拓海に思いっきり平手打ちを食らわせて、覚醒させる。
「いッ……てー……」
打たれた頬を押さえながら拓海が顔をあげる。そして、気づく。目の前にいるのは涼介ではなく、松本だということを。そして、自分の周りから漂う雄の匂い。疲れきった顎が、今まで拓海のしていた現実のことを自覚させた。
「あ…」
「楽しかったかい?」
松本がにっこりと微笑みながら拓海に顔を近づける。そして唇を通り越して首筋にキスを落とした。
「最後までやらせてよ」
拓海をかかえて、ハチロクのバンパーに押さえつける。松本が変えようと提案したハチロクの黒いバンパーが拓海の肌の白と精液の白を際立たせている。
松本は拓海の尻に手を伸ばし、すぐに入り口を探し当てた。今まで人にいじられたことのない蕾は、反射で閉じて抵抗した。そこをそっと中指の腹で撫でてほぐしていく。
「やめろっ!」
松本の指が無理やりに拓海の蕾をこじ開け、内に侵入しようとする。
「ぅあっ!痛…ッ」
「さすがに初めてだとキツいね…」
松本はそう言いながら頬が緩むのを止められなかった。そして下半身も我慢出来ずに、まだ十分に準備されていない蕾に性器を押し当てた。
「いやだっ!」
「嫌だ?コレは涼介さんの内に入ったんだよ。同じモノが」
「…っ!関係…ない!」
「そうかな。涼介さんの中ってすごく熱くて締め付けがいいんだよ。涼介さんと同じ体験したくない?」
拓海の脳裏にさっきの幻影がよぎる。
スキを見て、松本が一気に侵入した。
「うあ…っ!!」
拓海の目尻に涙が浮かぶ。
「くッ…」
初めて受け入れる蕾は、キツく侵入物を拒んで締め上げる。強すぎて松本にも痛みが走るくらいだ。
けれど、松本が求めていたものはこれだった。まだ開発されていない蕾を喰うのが一番好きだったのだ。容赦なく奥まで挿入する。
「あっ…ア、はぁっ…」
苦しくて息ができない。切れて鮮血が太ももを伝う。その鈍い痛みが拓海を逃がさない。
「動くよ」
「やめっ…ぁ!!」
松本は腰を揺さぶり始めた。
「あ…!ん、い…ッ、はぁ、あ…ン、」
拓海は痛みで頭が混乱し、必死にバンパーにしがみつく。
松本は最高に楽しかった。予想以上の締め付けに笑いが止まらない。

(もう嫌だ…これが涼介さんなら…いいのに…)

不意に拓海の頭をそんな考えがよぎった。

(涼介さんなら…いいのか?オレ、そんな風に思ってたのか…?)

自分のなかに隠れていた感情に気づき始めたとき、異変が生じた。痛みで麻痺して何も感じなくなっていたソコが、松本を受け入れるように動き出した。

(な…んだ、コレ…?)

拓海は認めたくなかった。

(気持ち…イイ?あ、なんか、すっげー…良くないか?オレ、男に突っ込まれてんのに…)

松本は拓海の性器に手を伸ばすと、次第に硬くなってきていた。それは拓海の感情の全てをもの語っていた。
「ははは、感じてるんだ?早いなぁ。才能かなぁ、藤原くん」
「や、っ…、ん、ん」
快感に目覚めた拓海は本能的に腰を振って快楽を貪った。
「よ、し、いいぞ。もっとだ」
松本のピストン運動はさらに加速し、さらに奥まで貫く。
「まつ、…さ…ぁ!は、やめ…」
「違うだろ、”もっと”だろ?すごい感じてるんだろ…?ははっ…ン、オレ、は、あんた専属のメカニック…だ…。わかるんだよ、手にとるように…な…」
「あ、」
「ほら、”イイ”って、”もっと”って言えよ…っじゃないとやめるぜ?」
松本が腰を引こうとすると、
「や!…やめ、ないで…、も…っと、はぁ、もっとちょうだい、松本さ…」
「じゃあ君には、こういうの、どうかな…?はっ、」
松本は少し腰ひねって、軽い回転を加えながら器用に拓海を強く突き上げた。
「あ!こ・・・れ、イ…っ!!」
まるでチューンの話でもしているかのような会話。松本も、そして拓海も本能のままに快感を求めた。
「まつも…さ、もっ…出る」
「まだ、…まだだよ」
「無理…っ」
松本はもう射精しようとする拓海の性器の根元を強く掴んだ。
「い…っ、離せ、よ…」
「は、一緒に…イける、大丈夫…」
松本の腰の動きがかなり小刻みに速くなる。拓海も直感でもうすぐ松本が射精するのを感じた。
「は、やく…」
拓海は待ちきれない。掴まれた場所から痛みが走り、頭のなかが沸騰したように何も考えられなかった。松本の、その瞬間だけを待っている。
松本が口を歪めてくっと苦笑した瞬間、掴んでいた拓海自身を1回強く扱いて手を放した。
「ぅあ…」
「く…っ」

2人は同時に白い濁った液体を吐き出した。松本の放った精液が拓海の内部を刺激して、拓海はこれまでに無かった快感を味わった。
激しく動き続けた2人は、その場に倒れこんだ。

コンクリートの床の冷たさが、2人の熱を冷ましていく。
身体の火照りが引くに連れて、松本は思った。
(もう、前の関係には戻れないかもな)
しばらく息遣いだけが呼応した。

「…松本さん」

どれくらいの時間が経ったのか。
最初に沈黙を破ったのは拓海だった。
寝転ぶ2人の視線が交差する。

「オレ、」

松本は拓海の言葉を待った。

「オレ、帰ります」

拍子抜けした。次に来るのは、罵声か別れの言葉だと思ったから。
拓海は起き上がって、ハチロクのバンパーについた汚れ、、をTシャツの袖でふき取った。松本はその光景を眺めていた。
拓海がドアを開けたとき、松本を振り返ってこう言った。


「乗りにくい足になってたら、、許さないですよ」


ドアが閉まる音を聞きながら、松本はハハっ、と声をたてて笑った。




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