FIRST DIVE 目の前にあるのは、ヒトの身体。 これからしようとしている行為も京一には珍しくないものだった。 ただひとつ。 相手が男だということを除けば。 「涼介」 京一が涼介の首筋に顔を埋めるとふわりと酒の香がした。 涼介の吐息が甘ったるいアルコールであるかのように、京一を酔わせる。 その香と一緒に涼介の肌を味わうように肌に唇を当てた。 「…っふ、」 京一の手が涼介の身体のラインを辿るようにゆっくりと動くと、身体をくねらせて反応した。 涼介は京一が思っていたより遥かに敏感なようで、 酔いも手伝ってか、気持ち良さそうに息を漏らす。 反応が面白くて、胸の突起を扱いてみる。 「…!」 ビクリ、と動いた涼介を見て京一は口元を歪めた。 「…京一、面倒なことはしなくていい」 「いいじゃねぇか。雰囲気くらい楽しませろ」 何か言いたげな様子だった涼介だが、乳首に吸い付いてやったら小さく息を漏らして降参した。 固くなった突起を指で、舌で愛撫しながら涼介の声にならない声を聞いていた。 そのうち、京一は涼介の脚の間で少しずつ熱くなっているものに気づいた。 京一はゴクリ、と喉を鳴らした。 お互い男同士の行為は初めてだ。 他人のそれを触る機会など無くて、どう扱っていいのか解らない。 手を伸ばして指でそっと勃ちかけているモノをなぞる。 「 」 京一の指先が思いの他冷たくて、涼介は身体を小さく動かした。 涼介を一瞥して、京一は根元から先端までゆっくりと指を動かしてなでてやった。 涼介のモノが反応していくのが目で感じ取れた。 涼介は顔の前に腕をやり、表情を隠そうとした。 愛撫を与えている男はその腕を制止する。 そして、涼介の耳元に見ていろ、と意地悪く囁いた。 京一は涼介の性器を軽く握って、上下に動かし始める。 緩急をつけたその動きは涼介はどうにも辛抱ならないらしかった。 京一が与えてくる刺激はとても甘美なもので、理性が跳びそうになる。 そして代わりに強くなる、本能。 それは京一にも言えることだった。 自分の与える刺激が、高橋涼介という男を壊そうとしている。 これからだ。 もっと、もっとお前らしくないお前を見たい。 自分だけが見る、高橋涼介を。 「目ェ逸らすなよ。自分でやったことあるんだろう?」 涼介は答えなかったが、頬の紅みが心なしか強くなったように思う。 「自分で手ェ伸ばして、触って、握って。動かし始めたらもう止まらねぇよな」 涼介の瞳を見ながらつづける。 「男ならみんなやってることだぜ。お前もやったことあるだろう?」 答えは聞かなくても解っている。 それでも。 この男の口から聞きたかった。 「…男だからな。仕方がないだろう」 「何が?」 「……溜まるってことがだ」 「溜まったらどうするって?」 涼介は眉間にシワを寄せて京一を睨んだ。 京一はふ、と笑って悪かった、と言った。 ああ、調子に乗りすぎたかもしれない。 アルコールのせいだろう。 涼介のひとつひとつの行動が、たまらなく愛しく感じるなんて。 これは、彼とのこの行為は。 自分の性欲処理を兼ねた人助けだ。 自分は溜まったものを出して、涼介はそれで意識がトべばいいわけで。 それ以外のものは必要ない。 京一は涼介のモノを扱く手を強めた。 「きょ…いち」 「一回出しといた方がいいだろ」 涼介の先端から溢れたものが、クチュクチュと卑らしく音をたてる。 親指で先端を弄ってやりながら、涼介を高みへと導く。 呼吸が速くなる。 そして涼介が眉を寄せたと思った瞬間―――― 「っ!」 京一の頬に勢い良く白濁した液体が飛び出した。 熱い。 涼介の内にあった欲望の象徴は、熱くて。 涼介に目をやると、空気を求めて、呼吸を整えているようだった。 そして京一は涼介の体液で汚れた自分の手を見る。 (ヤベェだろ…、あれは) 初めて見た。涼介のあんな顔。 とても卑らしくて、とても愛しい。 京一は欲望を放った涼介とは対照的に、自分のモノが硬く勃ち上がっていることに気づいた。 さて、どうするか――。 知識だけはあるけれど。 でもお互いに初めてのこと。 「京一」 自分の勃起したものを見ている京一に、涼介が声をかける。 「今度は俺が…」 「要らねぇ」 涼介の言葉を遮って、京一は言う。 「俺がイっても意味ねぇだろ」 涼介はぐ、と黙った。 「こっちで楽しませてくれ」 言って、京一は涼介の双球の下に手を滑らせる。 「男でも感じるんだろ?」 目指す場所に辿り着いた指は、入り口をゆっくりと動く。 「…っ」 京一は涼介の腹部に吐き出された欲望を指で絡め取り、それを秘部へ塗りつける。 「ローション要らねぇくらいだな」 ゆっくりと撫で回し、騙しながら中指を挿れてみる。 「っ!」 (無理だろ…これは) 本来、挿れられるように出来ていないそこは、 京一の侵入を簡単には受け入れてくれないようだ。 京一は指を引き出し、唾液をつけてさらに濡らした。 今度は少し無理をして挿れてみる。 京一の節くれだった指が第二関節まで入った。 押し込むと、中指を咥え込んだ。 次は、2本。 次は、3本。 出し入れしながら増やしてみると思ったより早く慣れていく。 けれど、涼介の感じている痛みは顔を見れば十分に感じ取れた。 目尻には涙が浮かんでいる。 「涼介」 京一は涼介を四つん這いにさせる。 改めて、秘部に指をやると、 今度は簡単に指を咥え込んだ。 中で少し指を動かして、内壁を探る。 涼介の中は熱くて、指が同化してしまいそうな感覚になる。 しばらく動かしていると、涼介が小さく声をあげた。 どうやら、目的の場所は見つかったようだ。 そこを刺激してやると、涼介は声を漏らし始めた。 「涼介、ここか?」 確信はあった。 涼介は京一を見ただけだった。 潤んでいたように見えたのは、きっと涙のせいだろう。 それ以外に理由は無いのだから。 「挿れるぞ」 京一は、既に熱く脈打つ自分に涼介の吐き出したものを塗り、秘部にあてがった。 余裕無ぇなぁ。 自嘲して笑う。 「力抜いとけ」 ゆっくりと、押し込む。 「ぅ…あ」 指を受け入れてくれた秘部も、京一のモノはやはり辛いようで。 それでも、京一は止めようとしなかった。 無理やり全てを押し込み、そしてひとつ息をついた。 涼介は辛そうに息を吐いている。 京一は、その様子を見て喉の渇きを感じた。 どうしよもなく煽られる。 もう、止められそうにない。 熱く脈打つ自分を。 「京…一、動いて…」 涼介が発した言葉に京一は目を見開いた。 「動いてくれ…、いいから…」 京一を受け入れているだけでも辛そうなのに、この男は――――。 自分がどれだけ艶っぽく見えているのか、解っているのだろうか。 「うぁ!」 京一が腰を深く突き入れると、涼介は声をあげた。 内壁は痛いくらいに京一を締め付けてくる。 「力、抜いとけって」 「っ」 ゆっくりと、始まる律動。 京一は涼介の腰を抱えた。 涼介は声を抑えるように、自分の腕を噛んだ。 「ゥン…っ」 それでも漏れてくる声と涼介の姿に、京一は欲情を煽られる。 涼介が、一際声をあげる場所をしつこく狙う。 右手で、涼介の性器に触れると、そこは意外にも硬くなりかけていた。 刺激を加えてやれば、一層主張し始めた。 前から、後ろから。 下半身を弄られる感覚に、涼介は頭がぼんやりとしていた。 強烈な痛みは消えたのか、それとも慣れたのか。もう感じなかった。 京一が当たる、その場所から、妙な感覚が伝わる。 空気を求めながら、それでも下から来る感覚を忘れることは出来なくて。 「ぁ!」 気を抜くと、勝手に声が出る。 不意に、噛んでいた腕を剥がされた。 「声出した方が痛くないらしいぜ」 京一は後ろから言う。 相手に言われるのが恥ずかしくて、でもどこかに少しは気遣ってくれているのだろうか、と期待してしまう自分が居る。 そんななずは無いのに。 「っ…ア…は、ん」 涼介は顔を動かして京一を睨んだ。 「誰…が、痛い、なん、て言った…っ」 そして京一は、それを見て笑った。 こんな格好してまで強がらなくてもいいのに。 らしい、な。 涼介のそれは、ただの強がりではなかったのだけれど。 痛くない、といえば嘘になる。 けれど―――。 科学的には理解していても、認めたくなかった。 ここまで、気持ちいいなんて反則だろ―――。 京一は、右手の中の涼介がさっきよりも硬くなっていることに気づいていた。 「涼介、気持ちイイのか?」 「…うる、さ、い」 素直じゃねぇな、と思いながら、京一は嬉しかった。 今、自分と繋がっているのは紛れもなく高橋涼介であると確認できたから。 京一は呟いた。 「お前の気が済むまで、抱いてやるよ」 喘ぎ、感じている涼介には多分聞こえていない。 右手にある涼介自身を強く扱くと、涼介の身体に緊張が走り、果てた。 だらり、と脱力した涼介を京一が受け止める。 「もっとも、トんじまったらその後何されても分からないんだろうけどな」 例え、抱きしめたとしても。 |