CYCLE



俺はいつもアニキの後ろを付いてまわってた。

俺たちが小学生だった頃、アニキは対戦カードにハマってた。
俺も、そのアニキを見ていてカードが欲しくなった。
買い物に行く度にアニキと俺はカードを買ってて。
家でアニキとカードで遊ぶのが楽しかった。
アニキのは、その頃からすっごい頭が良くて、弱いカードなのに巧く使ってた。
それに対して俺のカードは強いのばっかなのに勝てない。
その強いカードも、アニキからもらったものだ。
アニキが勝つ度に、そのカードいいなぁ、欲しいなぁ っていうと
『いいよ』って笑って俺にくれた。
アニキのもらったとこで、要は戦術の問題だったんだろうな。
俺が使うと急に弱く思えちまう。

けどある日、アニキはもうカードはいらないって言い出した。

俺に今までのカードも全部くれて。
そのうちに俺もだんだんカードがつまらなくなって、すぐに集めるの止めた。

あと、こんなのもあったけなぁ。
アニキが誕生日にミニ四駆が欲しいって言ったんだ。
アニキはミニ四駆をいじるのにハマったみたいで、
俺も触らせてもらったりしてた。
でもやっぱり自分のが欲しくなって母親にねだった。
皿洗いとか、家の手伝いしたりして粘って、
当時の最新モデルでかなりカッコイイやつを買ってもらった。
けど、どうしてもアニキの四駆の方がかっこよく見えて。
かっこいい、かっこいい言ってたら、
ある日、アニキがその四駆を俺にくれたんだ。

『啓介にあげるよ。俺はもういいや』って言って。

それからなんだよな。
俺もつまらなくなっちゃって。
クラスで流行り出した頃だったけど、俺ももういいや、って、なんか他のことやってた気がする。

中学入ってすぐかなぁ。
アニキが自分の小遣いでギター買った。
この音は何コードでとか、チューニングがどうとかいう話を聞いてるうちに、
また俺も欲しくなっちゃって。
でも、俺は小遣いとか貯めるほうじゃなかったし。
やっぱり親に頼んだ。
そのとき母さんが言ったんだ。

『またお兄ちゃんの真似して、どうせすぐに飽きちゃうんでしょ?』って。




***





「……」
啓介が寝返りをうつと、何か腕に当たる手応えを感じて瞼を開けた。
そこには、須藤京一が寝息を立てていた。
何時間か前まで、身体を交わらせていた男だ。
身体を揺さぶられているとき、啓介は自分よりも逞しくて、しっかりと筋肉の付いた腕をぼんやりと見ていた気がする。
あれは現実だったのか、それとも夢だったのか確証が持てない。
啓介はそっと京一の腕に手を伸ばした。

「ん……?どうした?」
啓介が触れたことで、京一を起こしてしまった。
峠で威圧的に光る瞳はそこには無く、今は啓介に柔らかい印象を与えている。
これが、この男の持つ本当の瞳なのだと思う。

「あんた、優しいんだな」

啓介は呟いた。
京一は少し眉をしかめてから苦笑して言う。
「それって物足りなかったってことか?だったらショックだな」
啓介は京一とのセックスに不満があった訳では無いが、
もう一度、これが現実であることを確かめようと京一の首に腕を回した。

「もう一回やろっか」

すると京一は応えるように啓介の頬に軽くキスを落とした。
次第に首筋、鎖骨、胸へとキスが沈んでいく。
啓介の乳首を京一の唇が掠めたとき、急に身体が火照り始めた。
京一はそんな啓介の感覚が分かっているかのように突起に何回もキスをして、舌で転がす。
「…っふ」

京一が行為を続けながら言う。

「なんで俺とこんなことをする?」

啓介は笑っただけだった。

「…お前のアニキにばれたらヤバいんじゃないのか?」

「うん。ヤバい」

京一は啓介の反応に半ば呆れながらも、啓介に愛撫を続ける。

この兄弟はどちらも何を考えているのか分からない。
これの兄も、いつだって冷静な顔をしていて、腹の中では何を考えているの分かったものではない。
恐らく、自分には想像もできないような壮大な計画を考えているのだろう。
もう何年も先まで、自分の未来を読めているに違いない。

…自分は涼介のことを買いかぶり過ぎているのだろうか。
あの男とは考え方が合わずに反発する事が多いが、
それでも、涼介のやろうとしている事にどこかで期待している自分が居る。

「アニキに…」

啓介が京一の耳元で囁く。

「バレてヤバいのはそっちの方じゃないのか?」

あんたは俺の兄が好きなんだろう?
兄ともこういうことをしているんだろう?
もし弟とこんな行為をしているのが兄に知られたら――――。

暗にそう言われた気がした。

京一はそれについて考えることはせずに、啓介の腿に手を這わせ始める。

構わない。
いつだって、どんなときだって俺に関心など示してくれないあの男に、
セックスの時でさえ自分を見ているのかも分からない涼介に、
強烈に憎まれることになっても。

俺は、構わない。
むしろ、高橋涼介に一生忘れられない存在になってやろう。
そう思い始めた。

「…ぁ」

京一の手が啓介の秘部へとたどり着いたとき、啓介が小さく嬌声をあげた。
ゆっくりと中指を奥へ侵入させていく。
啓介の息があがってきている。
辛そうに顰められた眉、痛みに耐えて揺れる睫毛。

あぁ、似ている。
これの兄に。
黒髪のあの男に。

涼介が時折放つ妖艶な雰囲気をこの啓介も持っているらしい。
普段は無愛想なこのガキも、やはり高橋涼介の弟なのだ、と
京一は改めて思った。

京一が性器を啓介の後ろから加え込ませたとき、
啓介が言った。

「アニキは…俺のことなんか見ちゃいない…」
京一が深く入り込もうとしているなか、啓介は続ける。
「きっと、また俺を置いて、違うところに行っちまうんだ。…自分の場所を見つけて」

京一は啓介の言葉を聞いていた。
啓介の内で脈打つ自分を抑えながら。

「あんたも」

「きっと、置いていかれるよ」

軽く投げ出された、カードやミニ四駆のように。
ずっと欲しかったものだけど、兄の手から離れると
それらは魔法が解けたように輝きを失ったように見えた。
兄が持っているからこそ、輝いて見えたのだ。

『置いていかれる』

そんなことはとうに分かっている。
京一は目の前で兄を追いかけ続けている男に愛おしさを感じた。
そして、啓介の背中に優しく口付ける。
それを合図に、京一は動き出した。

***



「俺も飽きられちゃったのかなぁ」

終わってから天井に目をやっていた啓介が、ボソりと言った。
その目には涙が浮かんでいた。

最近、赤城の兄弟が一緒に走っているところを見ないという噂を耳にした。
京一は、そっと唇で啓介の涙を拭った。

「そうなったら、置いていかれたら、二人でまた追いかけようぜ」

いつだってどこか遠くを見ているあの男の後姿を。




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